白神香茶庵は、秋田県能代市にある龍泉寺が運営する、塗香を中心としたお香のオンラインショップです。デザインの観点から先に結論を述べますと、このサイトの魅力は、生成りの余白と明朝体、そして朱色の縦組み文字という限られた要素だけで、香りがもたらす静けさという抽象的な価値を画面上に置き換えている点にあります。
商品写真をにぎやかに並べて訴求する一般的な通販サイトとは異なり、画面の大半を余白が占めています。それでも情報が足りない印象にならないのは、写真の質と文字組みの精度が高く、読み手の視線が迷わないように整理されているからです。ここでは、配色、ファーストビュー、写真、タイポグラフィ、情報設計、UIと導線という順番で、その作り方を具体的に見ていきます。
白神山地の麓から香りを届けるオンラインショップ
まずは、どのようなサイトなのかを整理します。デザインの意図を読み解くうえで、扱っている商材と発信の背景を押さえておくと理解しやすくなります。
白神香茶庵は、白神山地の麓にある寺院が、香りと祈りを日常に届けるという考え方で運営しているショップです。中心にあるのは塗香で、粉末状のお香を手や体にすり込んで使うものだと説明されています。古くから仏教の作法のなかで心身を清めるために用いられてきた香りであり、気持ちを切り替えたいときや、人と会う前、朝晩のひと呼吸に使う場面が想定されています。
取り扱いは塗香だけにとどまりません。白檀や沈香といった伝統の香木にハーブや花びらを重ねたオリジナルの調香、秋田杉やクロモジ、ハマナスの花など地元の素材を用いた香り、龍血樹などの希少な原材料を使ったお香、白神山地の朝を思わせるハーブティーなどが並びます。化学物質を使わず天然成分だけで仕立てているという方針も、サイト全体で繰り返し示されています。
ファーストビューで「余白」そのものを見せる設計
このサイトの姿勢がもっともよく表れているのが画面最上部です。商品を大きく見せることよりも、香りを迎える空気感を先に伝えることが優先されています。
左に余白を残し、写真を右端まで伸ばした分割レイアウト
画面は左右で役割が分かれています。左側の二割ほどは白い帯として空けられ、写真は画面の右端まで裁ち落とされています。この非対称な分け方によって、写真の面積が広いにもかかわらず圧迫感が生まれず、左の空白が呼吸のための間として機能しています。
見出しは、その白い帯と写真の境目をまたぐ位置に配置されています。文字が背景をまたぐことで、余白と写真が切り離された二つの面ではなく、ひと続きの画面として認識されます。写真そのものも、白い器に色の異なる粉が並ぶ俯瞰の構図で、被写体の周囲に十分な間が取られており、レイアウトの余白と写真内の余白が響き合う関係になっています。
切り替わる写真と、控えめなスクロール誘導
ファーストビューの写真は一枚で固定されておらず、複数の場面が入れ替わる作りになっています。器に並んだ粉を俯瞰した写真のほかに、小さな瓶から手のひらへ粉を移す場面などが現れ、商品の見た目と使い方の両方が短時間で伝わります。
画面右下には小さな丸い印が横並びで置かれ、いま何枚目を見ているのかが把握できます。左下には縦組みで小さく「scroll」と記され、そこから細い縦線が下へ伸びています。矢印を大きく点滅させるような強い誘導ではなく、線一本で下方向を示す抑えた表現が、全体の静けさを崩さないまま次の行動を促しています。
生成りと朱色でつくるトーン&マナー
配色は、このサイトの世界観を支えるもっとも重要な要素です。使われている色数は驚くほど少なく、その制約が上品さにつながっています。
ベースは生成り、差し色は朱の一色
背景は白と、わずかに黄みを含んだ生成りで構成されています。文字は黒に近い焦茶で、真っ黒よりも柔らかく、紙に印刷された文章のような落ち着きがあります。この二色にほぼ限定された画面のなかで、差し色として使われているのが朱色です。
朱色は、写真に重ねた縦組みの文字や、香りの素材を紹介する箇所の見出しに集中して用いられています。お寺の建具や印章を思わせる色でもあり、和の文脈と自然につながります。使用範囲を絞っているため、朱色が現れた箇所が自動的に注目点になり、視線の順番を色でコントロールできています。彩度の高い色が並ぶのは各種SNSのアイコンが置かれた最下部だけで、その手前までは静かな階調が保たれています。
明朝体と広い字間が生む静けさ
書体はサイト全体で明朝体に統一されています。見出しでは文字と文字の間隔が大きく取られ、一文字ずつを味わうような読み心地になっています。英字の見出しも同じ考え方で組まれ、和文と英字のあいだで印象の断絶が起きていません。
本文は明朝体のまま小さめのサイズで、行間をゆったり取って配置されています。補足的な一文は薄いグレーで、本文は濃い色でというように、色の濃淡だけで情報の階層を分けている点も特徴です。太字や下線に頼らず、書体の大きさと濃度だけで読む順番を示す手法が、画面の静けさを守っています。
写真と縦組みタイポグラフィによる世界観の作り込み
素材の見せ方も丁寧です。写真は単なる商品説明ではなく、作り手や産地の背景を伝える役割を担っています。
作り手と土地が写り込む写真
寺院を紹介する区画では、縦長の写真が右側に大きく置かれています。写っているのは、大きな窓辺で石臼を使い香の材料を挽いている場面で、窓の外には雪の残る景色と青空、遠くの山並みが広がります。商品の完成形ではなく作っている最中を見せることで、手仕事であることが言葉の説明より早く伝わります。
下部の区画では、黒い台に載った濃い釉薬の香炉が畳の上に置かれた写真が使われています。器の質感、畳の目、金色の敷物といった細部が、香りを使う場面そのものを想像させます。白い器に五色の粉が並ぶ俯瞰写真も繰り返し登場し、サイトを見終えたあとに残る視覚的な記憶を一つに束ねています。
画像に重ねた縦書きの日本語
写真の上には、縦組みの日本語が重ねられています。明るい写真の上では朱色、畳と香炉の暗い写真の上では白抜きというように、下地の明度に応じて文字色が切り替えられており、可読性が保たれています。
縦書きは日本語ならではの組み方で、横組みが主流のウェブ画面のなかでは強い個性になります。しかも文字が写真の内容を邪魔しない位置に置かれ、被写体との重なりが避けられています。香りの素材を紹介する帯では、五つの器の写真の下に素材名が縦組みの朱色で並び、それぞれの下に短い言葉が添えられています。写真と文字を一つの図版として設計する姿勢が徹底されています。
スクロールに沿って理解が深まる情報設計
情報の並び順にも明確な意図があります。訪問者が何も知らない状態から、商品を選べる状態まで段階的に運ばれる構造です。
数字で論点を分けた三つの区画
香りの特徴を説明する部分は、01、02、03という数字で区切られています。数字は大きめに置かれ、その下に短い横罫が引かれています。この罫線が見出しの起点を示す目印になり、区画の始まりが一目で分かります。
各区画は、数字、日本語の見出し、薄いグレーの補足文、濃い色の本文という同じ順序で組まれています。順番が固定されているため、二つ目、三つ目と読み進めるほど内容が頭に入りやすくなります。塗香とは何かという基本、伝統の香木に華やぎを重ねた調香の考え方、地元の自然を用いた手仕事という三段構えで、商品を見る前に前提知識が整えられています。
左右交互のジグザグ配置
三つの区画は、文章と写真の左右を交互に入れ替えて配置されています。一つ目は文章が左で写真が右、二つ目は写真が左で文章が右、三つ目は再び文章が左という並びです。視線は自然に折り返しながら下へ進み、同じ形が続くことによる単調さが避けられています。
写真はいずれも画面の端まで届いており、区画ごとに左右どちらかの縁が塗り分けられたように見えます。この端まで伸びる面が視覚的なリズムを生み、スクロールの手応えにつながっています。区画の切り替わりには十分な空白が取られ、内容の切れ目が余白の広さで伝わる構成です。
買い物のしやすさを支えるUIと導線
世界観を優先しながらも、購入までの操作性はきちんと確保されています。装飾を抑えたUIが、画面のトーンを崩さずに機能しています。
常に見えるヘッダーと右から現れるメニュー
ヘッダーは画面上部に固定され、スクロールしても表示され続けます。左端には寺院の紋を思わせる丸いロゴが小さく置かれ、右端には検索、会員向けの入口、カート、三本線のアイコンが等間隔で並びます。いずれも線画のアイコンで、色を持たないため背景の写真を邪魔しません。
三本線を押すと、画面の右側から白いパネルが現れます。中にはHOME、ABOUT、BLOG、CONTACTという主要な項目が縦に並び、その下のLINKという見出しに続けて、公式サイトや各種SNSへの入口が小さな箇条書きで整理されています。さらに下部には会員向けの入口とカートのアイコン、そして下線だけで表現された検索欄が置かれています。パネル内の文字も明朝体で字間が広く取られており、メニューを開いてもサイトの空気が変わりません。
三列の商品グリッドとカードの統一感
商品を並べる区画は、正方形の画像を三列に並べたグリッドで構成されています。カードごとの間隔が広く取られているため、要素の密度が上がっても窮屈になりません。画像の下には商品名が小さな明朝体で置かれ、行数が増えても列のリズムが崩れないよう配慮されています。
特徴的なのは、商品画像そのものが作り込まれたバナーになっている点です。実物の写真に加えて、商品名が縦組みで大きく配され、その脇にローマ字表記や短い説明が添えられています。涼、清鈴、翠光、咲、赤龍香、白龍香といった名前が、それぞれの香りに合わせた色づかいで表現されており、緑の葉や水彩のにじみ、龍の線画などが用いられています。カードごとに絵柄は違うものの、縦組みを使うという共通の約束が守られているため、一覧として見たときに散らかった印象になりません。
ページの下部には、寺院の紋、プライバシーポリシー、特定商取引法に基づく表記、そして各種SNSのアイコンが並ぶ簡素な足元が置かれています。また、画面の右下には吹き出しの形をした丸いボタンが常に表示され、どの位置までスクロールしても質問のための入口が視界に入るようになっています。
塗香を扱うショップサイトを見比べるときの視点
ここからは、塗香を販売しているサイトを探すときに役立つ一般的な見方を整理します。香りは画面越しに確かめられない商材なので、サイトの作り方そのものが判断材料になります。
第一に、原材料と製法がどこまで説明されているかです。白檀や沈香のような香木を使っているのか、天然の素材だけで仕立てているのか、精油を重ねているのかによって、香りの立ち方は大きく変わります。素材ごとに一言の説明が添えられているサイトであれば、香りの方向性を読み手が想像しやすくなります。
第二に、使う場面が示されているかどうかです。塗香は手や体に直接すり込んで使うため、香水のように周囲へ広げる香りとは前提が異なります。人と会う前、仕事の合間、瞑想や写経の前といった具体的な場面が書かれていると、自分の生活に合うかどうかを判断しやすくなります。
第三に、作り手の情報が見えるかどうかです。誰が、どこで、どのように作っているのかが写真と文章で示されていれば、香りの背景まで含めて選べます。産地の風景や作業の様子が掲載されているサイトは、商品の説明だけを並べたサイトよりも納得感を持って選びやすいといえます。継続して使いたい場合には、詰め替えの用意や定期的に届く仕組みがあるかどうかも確認しておくと安心です。
まとめ:静けさを設計に落とし込んだお香のショップ
白神香茶庵のサイトは、生成りの余白、明朝体と広い字間、朱色の縦組み、そして端まで伸びる写真という限られた手法だけで、香りの静けさを視覚に置き換えています。色数も装飾も絞り込みながら、01から03へと段階的に理解が深まる情報設計と、左右交互の配置による視線誘導によって、読み進める手が止まらない構成になっています。
世界観を重視したサイトは操作性が犠牲になりがちですが、固定ヘッダーの線画アイコン、右から現れるメニュー、三列のグリッドといった実用的な仕組みが静かに配置されており、見る楽しさと使いやすさが両立しています。和の要素を取り入れたデザインや、余白を主役にしたショップサイトを検討している方にとって、参考になる点の多い一例です。
実際の余白の取り方や縦組みの重ね方は、画面をスクロールしながら見ると理解が早まります。塗香を販売する白神香茶庵のオンラインショップで、写真とタイポグラフィの組み合わせをご覧ください。







